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   自然生活(エコライフ)

   体に美味しいスローフード


とりたてて、自然食とかスローフードと意識して食べているわけではありませんが、もぎたての畑の恵みや、海山の幸をいただいているうちに、食べ物のほんとうの価値は、値段やルックスではなく、食材のもつ生命力にあるのだということがわかってきました。
新鮮で野生に近いものほど、いきいきと力強い生命力をはなちます。
温室栽培のくだものや、農薬と化学肥料で育った野菜は、生命力も弱く、味や香りもうすくて、おまけに農薬特有のいやな苦味が口に残ります。
生命力にあふれたものを食べると、体がよろこんで元気になるのがわかります。
わたしは家庭的な能力にかけたダメ母ですが、美味しいものが食べたいから、子どもたちの体に悪いものを入れたくないからこそ、めんどうでもできる限り、食を手作りしようとこころがけています。

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  おやすみ、がまくん


南の海から黒潮に運ばれて、暖かく湿った空気が熊野に大量の雨を降らせる。梅雨の始まりだ。
降りしきる雨、時に激しく、時にうっとうしく。けれどこの雨が熊野の緑をいのちを育むのだ。
梅雨は、熊野が一番、熊野らしい季節かもしれない。
私たち一家は熊野の山奥に暮らしている。私の住む集落のすぐ背後にそびえる山が、屏風のように熊野灘からふく風を受けて、この集落までが気候風土も文化も熊野で、山の向こうは吉野である。
私の耳にはいつも、水音が響いている。
集落を横切って流れる川の水音が狭く険しい谷間に反響して、水音は荘厳な天然音楽のシンフォニーとなり、常に私の耳を洗い、心を浄化してくれる。夕べ夜半から激しく降りついだ雨で、今日は久しぶりに川の水かさが増した。ごうごうスサブル水は岩を打ち、水音は家のなかにいても圧倒的な強さで鳴り響いてくる。ひたひたと押し寄せてくる。
夕刻までに雨は上がって気温が上昇し、むっとする夜の空気のなかを、湧いたように羽虫が群れで飛び始める。
午後10時を過ぎても明りが灯っているのは私の家ぐらいだ。谷間のじいさんばあさん、夜が早い。朝も早い。
闇に浮かぶわが家の玄関の灯には、無数の蛾が集合して、パーテイーを開いている。
鮮やかに羽をひろげて壁に張りつきくつろぐ者、せわしなく光とダンスを踊るもの。
灯りの下に置いた朝顔の鉢が気になり、ふと足元を見ると、素焼きの小さな鉢にかぶさるように、ぎょっとするほど大きくて素焼きのうような膚のかえるがそこにいた。
がまくんである。
雨あがりにはかえるも多い。今の今まで水音に唱和するかえるの歌声に聞きほれていたくせに、このがまくんの大きさと、グロテスクなまでに精巧かつ大胆な風貌に心、わしずかみにされて立ちつくしてしまった。
だって、全身に入れ墨をほどこした曙さんみたいなんだもん。
彼の巨体が朝顔の小さな双葉を潰しはしないかと気になる。
けれど、追い払う勇気は私にはない。追い払うのも、失礼だと思う。

   「さあ、お立ちあい。取り出したるはガマの油」

吉野山生まれの友人は、このがまを捕まえてきて、ワザと怒らせたのだと言う。
怒ると、がまの皮膚からは「にきびの先をつぶすと出る白い油のようなもの」が、ぷちゅっと出るらしい。
これがあの有名ながまの油である。山伏は山野でがまの秘密を知ったのか。それとも異国からの知恵であるか。
刀きずにも効くがまの油を、友人は嘗めてみた。
「口の中が痺れた。」
刀傷に効くというのは、痛みを軽減させる麻酔効果があるということかもしれない、と友人は思ったらしい。
さらにがまを怒らせて、友人はもうひと嘗めしてみた。
「今度は、喉まで痺れた。」
友人はがまを窓から逃がした。もうひと嘗めして胸まで痺れたら、怖いと思ったらしい。
おとなしいけれど、凄いパワーを持つがまくん。
私は畏敬の念で彼を見つめた。と、その時、がまくんの体が動いた。いや、正確には顔を上向けてさっと伸ばした舌のさきで虫を捕えたのだ。
がまくん、朝顔の双葉つぶさんようにね。

   「しるし」を観る時

純白のドレスに身を包んだ貴婦人のような蛾、ひすい色、白に朱の模様。
あらゆる大きさと色の蛾が壁を飾り、がまくんが素焼きの精巧な置物のように鎮座ましますわが家の玄関さき。
あふれんばかりのいのちの夜だぜ。
黄泉がえる通信を創ろうと決めた矢先、がまくんがわが家の玄関先に姿を現わしてくれた。
私は山の生きものたちの姿に時折、「しるし」を観る。
動物たちは偶然を装って姿を現わしては、たいせつなメッセージを伝えてくれる。
それは夢に似ている。心にひっかかる夢の中の象徴的な事物を読み取る時には、理論的に考えるのではなくて、心の皮膚感覚で感じる。もっと言えば意識の厚い層の下で、窒息状態の「魂」があぶくのように吹き出すメッセージなのだと思う。
今日の「しるし」は、がまくんだった。
しかし、それにつけても物凄い光景だなあ、とつぶやいて、私は灯りを消した。
「ありがとう、がまくん。これからもよろしくね。」

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